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今、そこにある未来 4.23ノア武道館

日曜日に日本武道館で行われたノアの興行はいつものノアの武道館と違い客入りは7割強。2階席上方には空席が目立ったが、それはある意味当たり前だ。何せ後楽園ホールで行われてもおかしくない様なマッチメイクで行われたのだから。メインは秋山VS井上という数年前には選手会興行で行われたり当時秋山が保持する白GHCのタイトル戦として地方の会場で20分1本勝負で行われたようなカードである。セミの試合は元闘龍門、現エルドラドである石森のノアへのトライアウト的色彩の強いジュニアのシングル戦。ほぼ純血で行われた試合が並ぶ。何処のプロレス団体もマッチメイクに苦労する中、この間の新日は両国国技館クラスのマッチメイクで後楽園ホールの興行を行った位で、どこも観客動員に苦しんでいる。それなにに…。いやはや、このノアの頑固さ、そして三沢のある意味の強かさには、逆の意味で驚かされるより他ない。そしてノアの“底値”が今回の動員数だとすれば、それはそれでノアの底力を見せ付けた興行でもあった。

しかしこの興行の中でひときわ異彩を放ってというよりも、この大会のピークは、セミの前に組まれた小橋VS丸藤である。日本はもとよりマニア向け雑誌とは言えアメリカのプロレス雑誌でも2年連続でMVPを獲得している最高峰のプロレスラー小橋とジュニアの若き天才と呼ばれる丸藤のシングル初の一騎打ち。この興行は事実上この試合のワンマッチ興行である。

とにかく最近の丸藤は神懸かっている。正月武道館の対KENTA戦から完全に「ゾーン」に入ったかのようなスーパープロレスを見せ続けている。リアルジャパンプロレスでの佐山戦。3月武道館での田上戦。ジュニアという枠を完全に超え、いよいよ天才レスラーが試合内容で全てを凌駕し始めている。丸藤の存在が日本プロレス界の中心軸に打ち付けられようとしている中で行われた今回の小橋戦。とにかく今の丸藤には、試合には負けているのに(田上戦以外、悉く負けている)選手の格が上がるという正にプロレス的なことが起きている。これこそがプロレスの魅力である。

会場は若手のチャレンジマッチという受け止め方ではなく、完全に小橋王者時代と同じヘビー級タイトルマッチの王者と挑戦者の対決、という空気感が充満していた。プロレスが難しいのは勝敗論よりもそうした観客論が上位概念として成立するからだ。いくら無敗のレスラーが出てこようとも観客がそれを認知しなければその連ねた勝ちの試合は何の意味も持たない。観客視座における格闘技とプロレスの最大の差異はそこにある。

観客に十分に認知させ、しかもその試合の内容は四天王プロレスの範疇を超えた正に丸藤プロレスと呼べるオリジナルな異次元プロレスである。リングの内外を縦、横、斜め、そして空間と観客の想像力をも用いて、その想像力の上をいくプロレスを見せる丸藤のオリジナリティー。小橋戦の中でもそれらが随所に炸裂した。観客の熱狂は最高潮に達し、小橋が負けてもおかしくない状況が生み出される。そこには、ジュニアとヘビーの壁など全くなかった。ヘビー級の選手ですら小橋を追い込める選手など殆どいない中で丸藤がそこの域に到達したのは、凄いとしか言いようがない。丸藤の動きに息衝く三沢直系の受身の美学。相手の全てを引き出させる三沢プロレス=四天王プロレスに丸藤の兄弟子に当たる小川良成の持つクラッシクなアメリカンスタイルのスタイルに丸藤オリジナルの感覚がミックスされた今までどこにも無かったプロレスの世界がそこにあった。

試合途中で見せた丸藤の不知火フェイントのオースイスープレックスのスリリング感。トップロープを使いそのまま場外まで飛んでいくフロムコーナートゥ場外、小橋の鬼の様な雪崩式ハーフネルソンスープレックスを見事なバンプで受けきってみせるその卓越した受身。ドノ業界にでも天才と呼ばれる人が僅かにいる。丸藤は自分を天才であるとは認めていないが、彼こそが99%の努力の積み重ねの上に、誰しもが持ち得ない1%の神からの贈り物を持つ、正にプロレスの天才であると私は確信する。

4月23日日曜日、少しの空席のあった日本武道館のリング上には、プロレスの現在と未来が激しく交差しぶつかり合い、そして我々観衆の目の前にはこれから見ていくことになるであろう丸藤の、いやノアの、いやいや、プロレスの未来が光り輝いていた。この日、会場に来なかったノアファンはいやプロレスファンは、試合のVを見て絶対に後悔するはずだ。見に来れるチャンスがあった人に来なかった事を悔しがらせるプロレス。それこそが最高の観客へのプレゼントである筈だ。

  by mf0812 | 2006-04-26 18:40 | プロレス格闘技

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