人気ブログランキング | 話題のタグを見る

龍虎、邂逅  ~NOAH 1.8武道館大会~

1月4日の新日東京ドームは内容観客動員共に散々たる有り様だった。新日のドル箱であるドーム興行が史上最低の観客動員になっても、どうにか持ちこたえられたのは、新日営業の努力により勝ち得たスポンサーのお陰である。しかし当然ながら経費はスポンサーの資金提供で賄えても、今までの様な貯金ができたかと言えばその答えはノーである。その証拠に今度の2月20日の両国大会は、唐突に全日の三冠とIWGPのダブルタイトルマッチが行われる事になった。新日は10月の両国、11月の両国と大阪ドーム、そして1月の東京ドームと本来なら利益回収になる筈の大箱興行を立て続けに失敗し続けてきた。ここで両国がコケルとなれば、本格的に新日が傾く事にもなりかねない位、相当に切羽詰った事になりかねないのである。実券で両国を埋める、今までの新日ならなんて事は無いそんな事が今の新日は出来そうにもないくらい追い込められている。

新日はここ数年、興行団体としてプライドやK-1と言った総合格闘技などをオポジション団体として設定してきた。世間に問いかけるのが新日の真髄、という甘言に絆され、新日は無戦略、無戦術に総格に近づき失敗を繰り返し、自分達の価値を下げてきた。コンテンツとメディアに関する捉え方が旧態依然のまま不用意に近づいたそのツケを今、新日は払う事となっている。

一方、全日分裂後、そうしたオポジション設定を敢えてせずに興行を行ってきたのがノアである。三沢光晴の戦略は、偶然なのか、思慮の末なのか、見事なまでにテレビとプロレスの付き合い方の変化に自分達の団体のベクトルを合致させ、巧みに自分達のコンテンツをメディア内に位置づけた。テレビのゴールデン・プライムタイムで放送する事のリスクとデメリットを知る三沢らしい地味ながら極めて上手い経営判断である。

ノアは昨年の東京ドーム大会成功後、選手寮を作りあげた。昨年は新日全日含めてどこの会社も経費削減のため事務所移転を強いられた中、先行投資とも言える選手寮や外国人招聘枠の拡充や選手の海外派遣などの内部拡充を図ったメジャーなプロレス団体はノアだけである。

ある意味プロレス界の常識破りの展開を見せたノア。そのノアが毎年恒例になりつつある正月日本武道館興行を8日に行った。開場前から武道館前は人で溢れ、グッズ売り場の前からは人波が消える事は無い。試合開始18時の段階で会場は既に超満員、2階スタンドのテッペンまで人で埋まる武道館。しかも第1試合の百田VS永源からお客さんは既に出来上がっていた。

この日の注目は天龍の初参戦とメインの小橋VS鈴木みのるのGHC戦。しかしこの日のノア興行が何より素晴らしかったのは、このセミとメインまでの試合が極めてシンプルにしかも各試合に観る方に対しちゃんとフックが施されたマッチメイクであったことだ。事実全ての試合が終ったのは午後9時。最近はプロレスに限らず総格の興行でもダラダラと長い興行が主流となりつつなる中で、見事な3時間に収まった興行であった。

セミ前のジュニア戦は高岩金丸と言うプロレス職人による、新日ジュニア全盛期を思い出させるトップロープ上の攻防を見せていく。高岩の素晴らしいパワースタミナプロレスを金丸が受けていくと言う、かつて高岩ライガーサムライらが新日マットで展開していたあの熱気を帯びたジュニアの試合を思い出す。既に会場はこの段階で最高潮に達していた。

そして注目のセミである。天龍、越中、三沢に力皇と役者の揃ったタッグマッチ。サンダーストームが流れ、幟が立つ花道、敢えて感情を出さずに淡々と入場する天領の姿に、感慨を覚える。そして大歓声、三沢コールの中、かつて虎時代に7番勝負を挑み破れ、壁となり立ち塞がった兄貴分であるプロレスの先輩、かつて虎だった男は、その虎を捨てさせた男と肌を合わせる為に同じリングに時を重ねる。ノアを立ち上げた男、三沢光晴は天龍同様いつものように淡々と入場してきた。リング上で対峙する2人。様々な歴史を重ね、二人は必然として同じ場に立つ。その場面を見ながら、さすらいのミスタープロレス天龍が終の棲家へ「帰還」した感覚に陥ったのは、私の余計な感傷なのかも知れない。

そして試合。久し振りに見る三沢の振りぬいたエルボーの衝撃、制御できす思わず越中にも振りぬいたエルボーが一発で越中を粉砕する。力皇の顔面に跡を残す天龍のキック、三沢と天龍のエルボーとチョップの応酬。長き月日を経た二人の邂逅、力皇と越中が見事にタッグマッチのセオリーを理解しているからこそ、この二人の邂逅が際立ってみせる。その昔村上小川と対峙した力皇と違い、「技を受ける事への恐怖感」が無くなった成長したその姿と己のプロレス人生を投影させるかのような越中の意地の見せ方を堪能しながら、基本的な打撃技で超満員の観客を魅了する4人のプロレスラーにただ感謝。物語の序章としては最高の立ち上がりを見せた『龍虎』の邂逅は、腹8分で次なる物語を感じさせた。

メインの小橋鈴木戦。噛み合わないかもといわれていた同期生対決。お互いの出自は違うものの、原風景は同じである事を見せ付けた試合序盤の攻防。チョップに張り手にヘッドロックで10分間以上満員の観客を魅せられるレスラーの素晴らしさ。全日時代、試合開始前の全日のリング上で繰り広げられていた即席マレンコ道場で鍛え上げられた小橋のレスリングとゴッチイズムを継承する鈴木のスタイル。互いに出す技は全て基本的な技ばかり、しかもこの試合ロープに飛ばすというムーブは1回のみ、しかしそのリング上で展開されているものはまごう事なきプロレスである。中盤から終盤にかけての小橋の腕を巡る攻防、全日伝統の1点集中攻撃を感じさせるスリリングなやり取り。鈴木は鏡の如く自らを反射鏡にして小橋の違う側面を引き出し、一方で小橋は新日ではプロレススタミナのなさを露呈する事が多かった鈴木相手に見事にそこを巧みにカバーリングする試合構成を展開した。

最後容赦ない殺人バックドロップの連発で試合を決めた小橋の姿を見ながら、昨年の7月のノアドーム大会のメインを見終えたライガーが「メインの試合が凄かったのは認める。しかしこの試合はノアのベストであり、新日のそれとは違う。我々は自分達の持つスタイルを追及してそのベストを見せる」という主旨の大変心意気に感じたコメントをふと思い出した。

そこで私は思ったのである。まてよ、この小橋鈴木戦こそ、新日が目指すべきベストの試合なのではないか?と。垂直落下の技が連発されるわけでもなく、基本的なプロレス技で試合を構成し、観客を唸らせる。無駄なロープワークも無く、弛緩しない攻防が試合開始直後から展開される。セミのタッグマッチも同様であった。このような試合をノアでされてしまったら、しかも極上のそれをだ、新日視点でこの興行を見た場合には、単なる観客の熱気とか動員云々とか言う次元を越えて、新日の存在意義に関わってくる話になってくる。7月のノアドーム大会の成功はそれ程の問題ではない、このノア武道館興行は動員もそして内容共に新日に与えた影響は大きすぎるくらい大きかった。この大会を自費で観に来たと言う新日の柴田は退団し、天龍三沢の絡みををテレビで観戦した前田は久し振りにプロレスを見て興奮したと言う。確かに1.4ドーム大会の失敗と比較される幸運さもあったが、今後のプロレス界のベクトルなり軸を左右するくらい、このノアの興行は衝撃的であった。今、プロレス界は新しい段階に突入しつつある。風雲、急を告げている

  by mf0812 | 2005-01-26 06:33 | プロレス格闘技

<< キャンプ・イン Pat Metheny 『... >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE