カテゴリ:書籍( 27 )

 

徴税権力

徴税権力―国税庁の研究
落合 博実 / / 文藝春秋
ISBN : 4163687408
スコア選択: ※※※※※


このゴールデンウィーク、CSの日本映画専門チャンネルでは伊丹十三監督映画作品を特集していた。私にとって伊丹監督といえば「お葬式」そして何と言っても「マルサの女」だろう。第1作では山崎努の絶品な小悪党振りが存分に楽しめ、第2作では三国連太郎のワンマンショーを堪能できる最近の日本映画にしては稀有な娯楽映画のシリーズとなった。伊丹十三のその才の輝きを如何なく鑑賞出来る見事な連作である。伊丹十三といえば緻密な取材に基づくその精緻な脚本作りに定評があるが「マルサの女」製作時には徹底的に国税を調べ上げたという。ただ実際にマルサと呼ばれる部署はあるにはあるのだが、映画のように次から次へと事件を担当し解決していくという部署ではないという。その辺は伊丹流のアレンジだろう。

さて国税といえば最近出た本で白眉の作品がある。元朝日新聞記者である落合博実氏が出した「徴税権力」という本がそれだ。上にあげたマルサの真実も描きつつ、今までマスコミ的に明らかにされる事のなかった国税庁の内実を長期にわたり取材していた筆者が、その全てを詳らかにしたのが本書である。兎に角読んでいて「ここまで書くか!」と叫ばずにはいられない程、詳細な内容が描かれている。国税に陰に陽に圧力を掛ける政治家や国税と検察の闘い、そして創価学会と国税の綱引き、そして財務官僚や国税批判をしたものへ圧力を掛けるように税務調査に入る狡猾さの描写など、正にタブーなき衝撃の事実が連続して書かれていく。最近読んだ中でここまで面白かったルポルタージュはそうはない、とにかく凄い本だ。

金丸信の脱税事件摘発から芸能人や有名人らの脱税を見つけ出す方法、そして国税が権力化し、己の力を誇示するカのように「国策捜査」をしていく横暴さ、さらには政治権力や宗教団体への弱腰の姿勢など、検察、政権与党に次ぐ権力組織である国税の実態を白日の元に曝け出している。とりわけこの本で面白いというか凄いなと思うのが調査部と呼ばれている部署の仕事振りだ。この間林家正蔵が脱税で摘発を食らったが、もしかしたらこの国税の調査部が暗躍したのかもしれない。彼らはテレビのバラエティー番組などである豪邸訪問やお宝発見などの番組は、必ずチェックしていて、それを個人別にファイリングしてデータとして保存しているという。また圧力を掛けてきた政治家などの名もファイリングしているそうだ。この本の中ではそう言うことに縁遠そうだった小泉純一郎の名も出てきて驚かされるが、とにかく最初から最後まで驚きの連続で飽きさせる事なく読ませてくれる第1級の作品だ。
[PR]

  by mf0812 | 2007-05-10 14:58 | 書籍

治安はほんとうに悪化しているのか

治安はほんとうに悪化しているのか
久保 大 / / 公人社
ISBN : 4861620252
スコア選択: ※※※※※

前東京都治安対策担当部長という役職にいた人の書いた治安に関する本。そう言う役職の人が書いた本だからさぞかし怖い脅し文句が並べられているのかと思ったらさにあらず。この本は「治安」の現場いにいた人による、ある意味懺悔の書である。「指数治安」→「体感治安」、「防犯」→「治安」等と言う役所が使う言葉の置換作業のいかがわしさを現場の人物が鋭く指摘して、その危うさに警鐘を鳴らしている。本書後半では、如何にして役所経由のマスメディア発による治安悪化説が我々に印象付けられているかを分かり易く解説している。まぁこの本が売れるといろいろと都合の悪い人が出てきてしまうのでそれ程注目はされないとは思うが、本当の意味での治安問題を知りたければ本書に目を通すのが一番だろう。
[PR]

  by mf0812 | 2007-04-27 16:37 | 書籍

劣化しているのは誰なのか?

なぜ日本人は劣化したか
香山 リカ / / 講談社
ISBN : 4061498894
スコア選択: ※

最近、神戸事件の本を読むのをきっかけにしていろいろな犯罪ノンフィクションモノを手当たり次第に読み始め、勢い余って、少し小難しい社会学の本なんかも手を出しているがそこで気になったのが、精神科医である香山リカの見るに耐えない崩壊振りである。

まぁプロレスファンでもある私としては、例の全日からノアに移行するときの三沢へ対する失礼な発言の数々を読み、この人への不信感は増大していたが(笑)、本職の方でもここまで劣化しているとは思いもよらなかった。

この間図書館で目にした最近の彼女の寄稿文を読んで驚いたのなんの。急激な右旋回というか、いつの間にか石原慎太郎とかあの辺と同じこと言い始めていてビックリである。まぁ人間は変節するものである。変節する事自体を私は否定しない。でもねぇ。正に羊の皮を被った狼とは、彼女みたいな事を言うのだろうか。しかしホンの6,7年前までは、こんなにマッチョな事を言うとは思えなかったんだがなぁ。いつの間にかこの間この日記でも紹介したあの「人間力」とかを啓蒙するとか言う国民運動なんかにも参加していて、経団連なんかの太鼓持ちをやっているのには驚きしかないう。まぁ人間ここまで変われるのかと、ある意味では敬服致しますがね。

そんな彼女の最新作が「なぜ日本人は劣化したか」だそうである。タイトルからして読む必要性を感じない『ジャンクブック』の典型である気がするが、劣化したのは日本人じゃなくてあんただろう、と言う皮肉の一つでも言いたくなる。ブックレビューによると、例の「ゲーム脳」まで肯定しているとか。呆れてモノが言えないとはこの事だ。あんな似非科学の極地みたいなヨタ話を香山リカが肯定し始めようとは、一体彼女の中で何が起きたのか?いや元々そう言う素地があったにも拘らず、コーティングしていたものがはがれて素の本性が剥き出しになっただけなのか?何とも不可解なこの変節振りに、私はただ呆然とするしかない。

しかし何が彼女の磁場を狂わせたのだろうか。まぁこの間、教育テレビでジャイアント馬場の思い出を語る彼女の自己愛に満ちた表情と語り口を見ながら「この人、どうしちゃったんだろう?」とは思っていましたがねぇ。
[PR]

  by mf0812 | 2007-04-23 03:19 | 書籍

真相

真相―神戸市小学生惨殺遺棄事件
安倍 治夫 / / 早稲田出版
スコア選択: ★★★★

最近読んでいる本がどうもヘビーなものが多く心も重たくなってくるが、興味は尽きないのでついつい次から次へと関連書物を集めてしまう。こうなってしまったのも先月末、神戸で起きた少年Aによる連続児童殺人事件の関連書(少年が通っていた中学校の校長が書いた本)を偶然、近所の図書館で目にして借りてきたのがキッカケで、それからずっと犯罪関連のレポートや報告書、そして研究書ばかりを読んでいる。まぁいろいろと読んでくると日本の司法や検察のいい加減さが目に付くばかり、というよりもカナーリ不安になってくるのだが、こんな状況で我が国の政権は、少年法を改正して小学生まで少年院にぶち込むとか言い出しているんだが、大丈夫なんかなぁ。

さて、まぁあくまで個人的な見解だが、検事調書を読み表に出ているだけではあるが当時の捜査資料なんかも読んだ上で、例の神戸の事件の犯人はどうも彼じゃないなと思ったり。いや事件が事件だからもうちょいと言葉を正確に書かないといかんね。少なくてもあの事件は、警察や検察が調書等で示しているストーリーではない!という事だけは、素人の私でも分かる話だ。

個人的には、捜査開始当時、“現場の”捜査本部が想定していた犯人像と真逆である少年Aが犯人だという結論になったのか、その流れを知りたい処である。参考までに言うと、この事件には2つの捜査本部があったとされており通常の捜査本部は、聞き取りや状況証拠から考えて犯人像を大人に設定していたのだが、当時警察庁にあったとされる“第2捜査本部”の方針で事件の犯人像が大きく変わったとされている。この事件最大の謎がここにあるのだが、こればっかりは、それこそ内部からのリークでも無い限りその真相は永遠に明かされることは無いだろう。

さて読書といえば今週私が敬愛する内橋克人さんの「悪夢のサイクル」を再読したが、これまた重い本で気分がかなりブルーになる。ここ数年内橋氏が書いてきた内容を現在起きている事柄に絡ませ、整理して提示していて内橋本初心者にもわかりやすい内容になっているんだが、書かれている内容が絶望的でしてねぇ。でも現実から目を逸らしてもいけない訳で、為政者や権力をチェックする報道の方々には、きちっとこうした現実を見つめてほしいなぁと思うばかり。ただ内橋さんの批判は往々にして当たるんでねぇ。無原則に規制緩和しろと朝日新聞辺りまでもがヒステリックに叫んでいたあの90年代、「規制緩和の悪夢」という本でそうした風潮に警鐘を鳴らしていた孤高の内橋さんの言葉は、今も昔も変わらぬ重さと鋭さで我々を撃って来る。
[PR]

  by mf0812 | 2007-04-23 02:38 | 書籍

裁くという事、そして裁かれるという事

神戸酒鬼薔薇事件にこだわる理由―「A少年」は犯人か
後藤 昌次郎 / / 現代人文社
ISBN : 4877982396
スコア選択: ※※※※※


改めて言うのもナンであるが、私は2年後に導入が予定されている裁判員制度に反対の立場を取っている。もっと言えば被害者による裁判への積極的関与にもあまり積極的に肯定していない。そう思う理由は様々だが、特に被害者の裁判への積極的な関与は十分慎重に期すべきだろうと考えている。

私は金にルーズな博打者だし、普通の方々と違い他人から指を差されないキレイな人生を歩んでいない、もしくは今後も歩みそうにも無い不届き者である。ひょんな事でいつ何時塀の中に入る事があるかもしれないので、それ故にこの問題はより身近に考えている事もあり、尚更にこの制度変更への不安が高いのだ。

私は最近、諸事情重なり各種の犯罪ノンフィクションの本や資料を読む機会が増えたのだが、その中で世間一般が彼が犯人に200%間違いないとメディア含めて、私自身も微塵も疑ってなかった事件の真相に重大な疑義があるのを今になって知るに尚更におっかなくってとてもじゃないが裁判に関与したいなどとは思えないのである。具体的な事名は避けるが、その当該事件の裁判資料等を見ていると、私の様な素人ですら、これが問題視されなかったのが信じられない様な証拠における重大な見落としや捜査側の瑕疵があったり、しかもその重大な瑕疵を含めた上で事件全体を見直すと、どうにも彼が犯人では説明の付かないことが見つかったりと、驚愕の事実が散見される事態となっている。

しかしあの時の世間の空気を今から思い出した時、仮にそれじゃあ証拠的に疑いが残るとして、推定無罪の原則に従って彼を無罪放免に出来るかと言ったら…正直その自信が無い。裁判員は匿名性を帯びると言っても世間からの圧力に抗し切れる訳が無い。また立場を逆にして、彼に私の身内があの事件の被害者であり裁判で死刑を求めたとする。そしてその通りに判決が下り刑も執行された後に、裁判では明らかにされなかった違う事実を知らされたら違う苦しみを引き受ける事になるだけだ。

確かに人間は完璧では無いし、冤罪が無い世界などどこにもないのは百も承知だが、ここ最近見ている事件の資料で知る驚きの事実は、世間を巻き込んた重大事件であるからこそ不安にさせる。衆人環視の中で捜査や公判が維持され、マスコミの取材もなされた筈なのに素人目にでも分かるような重篤な捜査ミスがスルーされてしまう現在の司法や警察、そしてそのチェック機関であるメディアの能力を考えると不安でたまらない。私は現状が維持されたままで裁判制度への市民参加は、危険極まりなく二次被害者を生むだけだと思っている。
[PR]

  by mf0812 | 2007-04-18 02:38 | 書籍

追悼 城山三郎氏

生命の歌 城山三郎 昭和の戦争文学 第二巻
城山 三郎 / / 角川書店
スコア選択: ★★★★★

作家・城山三郎氏が亡くなった。城山氏と言えば「落日燃ゆ」「官僚たちの夏」「もう君には頼まない」「男子の本懐」など気骨溢れる政財界人を丹念に描いた力作や、社会的に封印された事件の掘り起こしたり、または市井の人々を優しい視点で描いたりと、本当に視線、視点が常に平たい素晴らしい作家であった。言うまでもなく私も大好きな作家さんであり、高校時代から今に至るまで城山作品は私の愛読書であり続けた。

その中でも一昨年にハードカバーで出た城山三郎戦争文学集は白眉の出来であったと思う。私は、一昨年末に文庫本化の際に全てをまとめて買ったのだが、余りの面白さに買ったその日に徹夜して一気に読破してしまった。戦争を知らぬ若輩の私にも胸に迫り来る内容であったが、特に第1巻である「硫黄島に死す」は、涙なくしては読み切る事の出来ない素晴らしい短編が収録されている。中でもイーストウッドの硫黄島2部作では描かれなかったある名も無き日本の少年兵を描いた「草原の敵」が読み手サイドに問うてくるその切迫感は心を捉えて離さない。

生前の城山氏は、個人情報保護法案を通過させようとした小泉純一郎前首相に対して烈火の如く怒り「もしこの法案が通るなら『言論の死』という碑を建てて、そこに小泉純一郎首相と全賛成議員の名を刻む」と抗議したのは有名な話である。城山氏と言えばその風貌から想像できないような直情溢れる気骨の人であり理不尽な事への怒りを忘れぬ『志』の人であった。衛星放送のニュース番組で小泉首相の靖国参拝に抗議、直言していた姿が氏の生前を見た最後になった。そんな城山氏が亡くなり、今日になり国会では殆ど騒がれずに「密告義務法」という個人の自由を著しく侵害する様なトンでもない悪法が民主党の賛成も得て衆議院をアッサリと通過してしまった。

この法律の建前は、テロ対策の一環としてマネーロンダリング防止の観点から、その容疑であればなんと警察が裁判所からの令状なしで立ち入り調査が出来るだけでなく、司法書士や保険会社にクレジット会社、貴金属業者など指定された業種の人は、犯罪の疑いのある取り引きをしていると思ったら関係省庁に通報しなければならない『義務』を負う法律であり、しかも通報した事業者はその事を顧客には黙っておくという法律なのである。つまり我々はいつ何時誰かに密告される危険を孕みながら生活するハメになる。何とも嫌な世の中であるが、個人情報保護法に身体を張って反対した城山氏がこの法律が殆ど無抵抗で通過していく様を見たらば、心の底から悲しみ、そして怒りに震えるであろう。
[PR]

  by mf0812 | 2007-03-24 03:50 | 書籍

『累犯障害者』 山本 譲司

累犯障害者
山本 譲司 / / 新潮社
ISBN : 4103029315
スコア選択: ※※※※※

最近読んだ本の中で一番の衝撃作は何と言っても「累犯障害者」という元民主党衆議院議員・山本譲司氏の書いたものだ。この本を読んだ後の衝撃は、そうそう拭い去れるものではなく、私は本当に己の無知さ、そして知らぬ事の怖さを思い知った。この本を読む前と読んだ後では、世の中で起きている事への問題感覚が180度変わる可能性があるかもしれない位に、とにかく今の世の中に横たわる常識を全て吹き飛ばしてしまう、そんな重く大きなテーマを抱えた本である。

作者の山本譲司氏は、彼は菅直人の公設秘書を経て都議会議員、国会議員となるが、2000年に公設秘書の給与流用の罪に問われて逮捕起訴され実刑を受けた。この時の様子は彼が本書の前に書いている「獄窓記」(TVドラマ化もされている)で詳細に記されているが、本著「累犯障害者」はその彼の獄中生活で知りえた日本社会の断面を克明に綴ったものだ。

本書によるとすべての受刑者は入所後作業の適応を調べるため知能テストを受けるという。で、まず最初の驚きは、そのテストの結果である。なんと試験を受けた全受刑者の、1/4がIQが70に満たない知的障害者であると言う事実だ。またそうした知的障害者以外にも視覚障害、聴覚障害、身体障害、更には精神障害の受刑者が数多くいて、彼らは幼年期から劣悪な生育環境に置かれ、国の福祉の埒外に放置された「福祉棄民」とも呼べる状況下で成年へと成長している人が殆どだという。彼らには当然ながら身元引受人としても受け入れてくれる福祉施設や親類もいない為、刑務所に入らなければ己の生命の存続すら危ぶまれる。それ故に司法サイドである検察官や裁判官もやむを得ず彼らを通常の人と区別する事をせず、39条を適用する事も無く、そのまま普通に受刑させている。

当然ながらそうした彼らは他者とのコミュニケーションが粗相してしまいそれ故に冤罪の被害に遭う事も侭ある。そうした具体的な事例が本書の中に書かれているがわれわれの良く知っていた事件も取り上げられてあり、衝撃の度合いを更に増させている。裁判制度の歪み、福祉行政の歪み、司法検察警察の歪み、そうした国家としての機能の歪みが、絶対的な弱者である彼らの生活に全て圧し掛かるというこの不条理。

この本を読むと、巷間飛び交う体感治安の悪化から引き出される、治安論や安全論が如何に不毛で危ういかが良く分かる。洪水の如く毎日浴びせられる事件報道の裏側にこうした日本の暗部、恥部が隠されている事を今一度我々は確認しなければならない事を痛感させられた。とにかく今早急に読まれるべき、必読の一冊である
[PR]

  by mf0812 | 2007-02-18 17:55 | 書籍

『ホーカス・ポーカス』 カート・ヴォネガット

ホーカス・ポーカス
浅倉 久志 / / 早川書房
ISBN : 4150112274
スコア選択: ※※※※※

カート・ヴォネガットと言えば、ブラックユーモア溢れるSFを書き続ける現代アメリカ文学を代表する作家だ。昔から皮肉を込めて現代のアメリカを描き続けてきた彼であるが、最近のコラムでは痛烈な現政権批判を展開している。そりゃ、そうだ、彼が今まで書いてきた作品内で「小説上の設定としての状況」として描いていた国家が、そのまま現実になりかけているからに他ならない。



この「ホーガス・ボーガス」は、アメリカのとある刑務所で集団脱獄事件が発生したというトコロから話はスタートする。小説内部の設定ではこの時のアメリカは、国家財政は破綻し、企業のほとんどはヨーロッパや日本の資本に買収されているという状況だ。件の刑務所も日本の企業が管理・経営している、いう設定となっている。小説はこの脱獄事件の首謀者とされた刑務所内の教師であったハートキが捕まった後、裁判を待つ獄中で事の顛末やら自分の半生やらをそこらへんの紙に書き連ねた、という体裁をとっている。



タイトルの『ホーカス・ポーカス』とは「嘘を誤魔化す作り話」をするための呪文、というような意味があるそうで、小説内では、ハートキが教師になる前に兵役として赴いていたベトナム戦争の戦場で行っていた『新兵を鼓舞するためのばかげたスピーチ』を指している。この小説そのものは今から数十年前にかかれた筈なのに、今アメリカで起きている事がそのまんまスライドしているような錯覚を覚えるような読後感。正にイラクとベトナムがリンクするかのようである。アメリカの恥部をユーモアたっぷりに皮肉を込めて描き切る。アメリカの小説にしては珍しく「原爆投下」をアメリカのエゴとして否定的に描いている点も注目したい。作中出てくる日本人はカナリ妖しい設定だが、まぁそれも味と言えば味となっている。あくまで「アメリカの現状に疑問」という視点から描かれているのだが笑える場面が満載でそういう視点は上手く塗されている。このバランス感覚がヴォネガットの真価であろう。
[PR]

  by mf0812 | 2007-02-09 17:39 | 書籍

「バカをあやつれ!」 戸梶圭太

バカをあやつれ!
戸梶 圭太 / / 文藝春秋
スコア選択: ★★★★

戸梶ワールド全開のおバカなミステリー。戸梶らしい皮肉効きまくりの素晴らしい小泉・安倍賛歌小説です(いや冗談ですよ、冗談)話の内容はと言うと四国の田舎町に警察署長として赴任した超エリート警察官僚と、幼い頃、この街にいた幼年期に壮絶ないじめ体験を受け、それを生涯の恨みとして抱える町長が、この町を“この世で最低最悪の下層社会”にするプロジェクトを開始していく…という話。真面目な人が読んだら卒倒しそうだが、とにかく最初から最後まで、戸梶ワールドで貫かれている。


[PR]

  by mf0812 | 2007-01-20 04:08 | 書籍

「彰義隊」 吉村昭

彰義隊
吉村 昭 / / 朝日新聞社
ISBN : 4022500735
スコア選択: ※※※※※

我が敬愛する吉村昭氏の「彰義隊」吉村氏お得意の丹念な取材に基づき、決して奇麗事では無い歴史の、そして人間の残酷さをそこから炙り出している。淡々とした筆致で描き出すその吉村氏の冷静な視点に感銘する。彰義隊という明治維新の中で葬られた存在を基点にし歴史の闇を鮮やかに照らしている。

吉村さんの書く歴史モノは、読む者に変な高揚感を与えないのが素晴らしい。この本もそうだが、歴史に埋もれた事実を掘り起こし、静かな視点でそれを炙り出していく。彰義隊とは明治の初期に前の将軍である徳川慶喜を警護する為にのために旧幕臣である渋沢成一郎や天野八郎らにより結成された旧幕臣等による尊王恭順の有志組織。この本はその彰義隊の行方というよりも殆ど歴史の中で語られる事のなかった、彰義隊の精神的支柱であった上野寛永寺山主の輪王寺宮能久親王の苛烈な人生を描いたもの。明治維新とは何かを歴史の裏側から照らし出す好著だ。
[PR]

  by mf0812 | 2007-01-18 14:01 | 書籍

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE