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オススメの作家シリーズ その1 内橋克人

規制緩和という悪夢
内橋 克人 / / 文藝春秋
ISBN : 416765623X
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内橋克人が著した「規制緩和という悪夢」は、日本経済学史に残る名著である。90年代に書かれたとは思えない見事なまでの予測力と洞察、分析力には感服せざるを得ない。この本が書かれた当時の日本は、規制緩和ブームで様々な経済学者や政治家等が「規制緩和が実行されれば、物価は下がり、消費者の所得は上昇し、新しい産業が生まれ、雇用は増大する」という主張を繰り返していた。言うまでもなくこの流れの行き着いた先が現在の小泉政権である。

本書には今流行り?のキーワードである「格差社会」の本質的な構造までもが触れられているが、そもそも格差のない社会なんてあるわけがなく、何をどうしようとも格差が生まれるのが資本主義経済の必然である。資本主義経済を信奉した昔の学者らが「資本主義には最高の道徳が求められる」と説いたのは、資本主義が暴走を始めると社会全体にインモラルな状況が発生するのを看過していたからだ。だからこそ政治セクターがセーフティーネットをこしらえなければならない。しかし現政権は「市場に委ねる」と言い逃れてそれを放棄し、恣意的な利益誘導をしている、これが小泉竹中ラインの本質であろう。

また内橋氏が関わった本の中に「ラテン・アメリカは警告する」という名著があるのだが、こちらの本を読むと分かるのが近い将来に起きるであろう日本社会の更なる悪夢の構図だ。氏はラテンアメリカの現状にその萌芽を発見している。本屋で経済本学のコーナーに行くと「200×年の日本はこうなる」とかいう感じの経済予測本が数多く陳列されているが、そんな本読むなら、内橋氏のこの2冊を読んだ方が賢明である。

そんな内橋氏がここ最近提唱している論調が「節約と成長が両立する国民経済は可能か」という視点であり、それを氏は「浪費なき成長」という独特な表現で提言している。難しい言葉で言えば企業一元社会から多元的経済社会への転換という論であるが、氏は実に20数年前からそうした論を展開している。元々内橋氏はNHKの番組であった「プロジェクトX」の製作チームが参考にしたという「匠の時代」という経済の現場を歩いて日本経済の技術の確かさを記した名シリーズを書いていたように、あくまでも現場に根差した書物を書き連ねている。その延長線上として所謂「マネー資本主義」批判をバブルの真っ最中に展開していた気骨の人物でもある。

氏は私が無条件で大推薦する作家というかジャーナリストの一人、最近なかなかいい経済学の本がないなぁと思っている人がいるなら是非とも一度氏の本を手にとって貰えたら幸いだ

  by mf0812 | 2006-05-10 03:22 | 書籍

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